■指定されている場所: 墨田区
墨田区は、東京23 区の中でも屈指の「ものづくりのまち」として知られています。この地域では、機械金属工業が発達し、様々な日用品の金属部分や、機械部品のためのプレス工場が集中しました。
金属プレスには、抜き型、曲げ型、絞り型、圧縮型などの様々な成形方法があります。材料は鋼板のみならず、さまざまな展性のある材料が用いられ、大型のものは自動車の部品や家電の部品、小型のものは雑貨など、各種部品の製造に利用されています。プレス加工が登場する以前は、金属の加工にはもっぱら板金(ばんきん)や鍛造(たんぞう)という方法が用いられました。
板金や鍛造には金型がなく、工具を使用した手作業なので、途中の設計仕様の変更や数量の変更にも柔軟に対応できますが、大量生産には不向きです。一方、プレス加工は大量生産に向いており、単価も安くすることが可能です。また、板金や鍛造は、加工者の技術力の差によって、仕上がりが大きく左右されますが、プレス加工の場合には、加工者の技術や経験がなくとも、それほど仕上がりに影響がありません。このように、それぞれの加工法には一長一短があります。
墨田区は、江戸時代から窯業や染色業が盛んでした。明治維新後、下級武士達が労働力として加わり、靴や鞄その他の日用雑貨を製造する中小企業が次々と発足し、墨田区は東京という大消費地に日用消費財を提供する一大供給地となりました。
しかし、昭和50 年代には、製造拠点を地方や海外へシフトするメーカーが増えていきます。また宅地化が進み、さらには後継者不足などのために、金属プレスに携わる企業の数は減少しています。
墨田区の金属プレス加工は、技術を要しない製品の場合、海外製品に価格面で競争することは難しくなっています。そこで何らかの付加価値や、より高度な技術を要する製品づくりによって海外での生産と差別化を図っています。例えば、墨田区が都心に近いという地の利を生かして、
都心に集中しているメーカーの開発・設計部門等に対して、密にコンタクトを保って、迅速に設計提案や試作を行うことにより受注を高めている企業があります。また、工業デザイナーとの連携によって、デザイン面も含めた設計提案を行うこともあります。プレス加工の中でももっとも難しいとされる絞(しぼ)り加工によって、他ではマネのできない製品造りをしている会社もあります。絞り加工とは、金属板成形法の中の1 つで、1 枚の金属の
薄板から円筒・角筒・円すいなど、さまざまな形状の底付容器を作る加工法のことです。 成形された製品にはつなぎ目がなく、鋳造や切削よりも金属の強度が強まります。 1 回で絞れる深さに限度があるため、何回も絞り加工を繰り返し、深絞り加工を行うこともあります。プレス加工は材料の無駄が少なく、油を大量に要する切削と比べて環境に優しいというメリットもあります。通常、絞り加工の材料にはアルミやステンレス等が用いられますが、それ以外の特殊金属(ニッケルやチタンその他の合金)をプレス加工することにより、特殊器 具の部品を製作している企業もあります。