東京桐箪笥
■指定されている場所: 品川区、荒川区、台東区
桐材は、軽くて柔らかいために保温性・断熱性が高く、また通気性に富んでいるため、多湿な気候風土の日本では、衣類のみならず、書画・骨董品を保管し、湿気から守るのに用いられてきました。桐箪笥は日本の代表的な収納家具となり、嫁入り道具には欠かせないものとなりました。女の子が生まれると自宅の庭に桐を植え、娘が嫁入りする時にはその桐の木で箪笥を作る風習があったとされています。桐箪笥は、機能面のみならず、美しい柾目(まさめ)や、気品のある落ち着いた色調、引き出しのスムーズさなどのために、親から子へと長く使われ続けています。
作業風景
桐箪笥を作るには、まず桐材を雨風にさらして「アク抜き」をします。次いで、部品の寸法より少し大きめに部材を切って「木取(きど)り」をします。木のゆがみをただすために火であぶってねじれや反りを直すことを「板直し」といいます。次いで、板同士を糊(のり)と締め付け具を用いて適度な幅の板にする「板はぎ」を行ないます。剥ぎ合わせた板を切って「粗取り」し、部材の表面に柾目板(まさめいた)を取り付けます(「板ねりつけ」)。その後、裁断しかんながけをしてほぞ取りを行います。さらに仕上げとして、「仕上げ削り」の後に、砥(と)の粉(こ)で下塗りをし、仕上げ液を「塗装」します。その後、「ろう引き」を行い、「金具付け」をします。東京桐箪笥には鉄の釘はいっさい使用せず、ホゾとウツギ(木釘)を使って組み上げていきます。
ウツギ(木釘)
箪笥は「一竿(ひとさお)」「二竿(ふたさお)」と数えます。これは、箪笥の前身である「長持(ながもち)」を運ぶために、取り付けられた金具に竿を通して運んだことに由来するからです。やがて箪笥の形になっても、運ぶための金具は引き続き取り付けられ、箪笥の数え方に名残が残ったのです。
竿を通す金具
江戸時代に育まれた技術は、明治、大正、昭和、平成、そして令和に至るまで引き継がれてきました。東京桐箪笥の特徴は、耐久性・耐湿性・耐火性に優れている点です。また国内の良質な天然素材である福島県会津地方の桐が使用されています。寒い地域の桐は質が良いと言われています。桐箪笥は湿気の多いときには湿気を吸って木が膨張し、気密性を高めて箪笥の中を乾燥した状態に保ちます。桐材は空気を多く含み耐火性に富んでおり、火災のときには表面だけが焼けて内部に達しにくい性質があります。また水がかかるとそれを吸収し、火の回りを遅くします。さらに、年月が経っても、削り直して修理することによって新品同様によみがえります。現在では、ライフスタイルの変化に合わせて、元の大きな箪笥を住宅事情に適したサイズにリメイクすることも行われています。