■指定されている場所:八丈町
「八丈島産樽(たる)カツオ」とは、一本ずつ漁獲したカツオを直ちに血抜きし、水揚げ後に氷と海水を入れたプラスチック製の青い樽の中に頭を下にして入れて出荷するものを指します。八丈島の樽カツオ漁は、戻り鰹などでよく見られる巻網(まきあみ)漁法ではなく曳縄(ひきなわ)漁法で一本ずつ丁寧に漁獲するので傷も少なく、海水と氷が入った樽で運搬されるため鮮度の良いものが市場に入荷します。
そのため樽カツオは八丈島ブランドとして市場では高値で取引され、高級料理店やデパートの食品売場などで提供されています。そして、青い樽に入った樽カツオが市場に並ぶのが、春の風物詩と言われてきました。
カツオ(Katsuwonus pelamis)はサバ科に属する大型の回遊魚です。体は紡錘形(ぼうすいけい)をしており、腹側に濃青色の縦じまがあるのが特徴です(生きている時にはこの縞はありません)。カツオは回遊する海域によって脂肪含有量に違いがあります。脂肪含有量が多いものは、刺身などの生食に向いており、 少ないものはカツオ節に適しています。
八丈島の周辺に来るカツオがどのようなルートで回遊しているのかを調査するため、カツオに「ダート式タグ」と呼ばれる標識を付けた「標識放流調査」が行われてきました。2008年の調査では、141尾のカツオに標識を装着し、そのうちの10尾が神津島沖から三陸沖で再び漁獲されました。日本近海のカツオは赤道域で生まれ、エサを求めて温帯域へと北上します。成長したカツオは再び秋頃に熱帯域に南下します。カツオが北上する回遊経路はいくつもあります。八丈島は、「伊豆小笠原マリアナルート」のカツオだけでなく、鹿児島を通過する「薩南ルート」や和歌山の南を通過する「紀南ルート」を通るカツオの群れの通り道となっているため、八丈島は「カツオの関所」とも呼ばれています。
樽カツオ漁の曳縄漁法とは、長い釣り糸に疑似餌を付けて、船を走らせながら漁をする方法です。八丈島では、1993年の水揚げ総額17億円のうち、カツオの割合が59%を占めていました。2003年も水揚げ総額9億円のうち、カツオが50%を占めていました。しかし、2013年の水揚げ総額10億円のうち、カツオは11%と激減しています。近年、赤道付近にいてまだ若齢のカツオが大量に巻網漁法で獲られており、それが原因で日本近海全体のカツオの漁獲高が減っていると考えられています(他の要因も関係しています)。
カツオは古代から日本人にとってなじみ深い魚で、縄文時代の貝塚からも骨が多数出土しています。江戸時代には、カツオは「勝男」に音が通じるとされ縁起物として重宝され、また初鰹は極めて高額な値段で取引されました。新鮮なカツオの刺身には甘みがあり、また臭みがありません。カツオは刺身やタタキだけでなく、カツオの茶漬け、カツオの血合いユッケ風、カツオのザンギ、カツオの黒胡椒パン粉焼き、カツオのユッケなどさなまざな料理法で味わうことができます。日本以外の国では、カツオは主に缶詰の原料として用いられています。
写真提供:東京都島しょ農林水産総合センター 八丈事業所