海鮮ちゃんこ
■指定されている場所:墨田区
「ちゃんこ」とは、「おすもうさん(元・現役問わず)がつくる料理」、または「おすもうさんがたべる料理」のことです(一般社団法人日本ちゃんこ協会による)。ちゃんこ鍋の創始者は、明治から大正初期にかけて活躍した横綱「常陸山谷右エ門(ひたちやま たにえもん)」です。相撲部屋の料理はそれまで個々の力士に配膳されていましたが、常陸山在籍時の出羽海部屋には入門者が多数集まったため配膳に相当時間がかかりました。そこで、大きな鍋で作った料理を大勢で共に食べることによって効率化を図ったのがはじまりといわれています。一度に大量に調理できる上に、同じ鍋を囲むことによって力士同士の連帯感も生まれ、また親方が弟子たちの食事の様子を見渡すことが彼らの体調管理の助けにもなることから、出羽海部屋のみならず他の部屋でも、大きな鍋を共に食べるスタイルがやがて広まっていきました。ちゃんこといえば、「ちゃんこ鍋」が有名ですが、鍋だけがちゃんこという訳ではなく、相撲部屋で力士が食べる料理全般がちゃんこと呼ばれます。
ちゃんこは主に幕下以下の力士が当番制で受け持ち、「ちゃんこ番」と呼ばれています。力士の食事は基本的に1日2回で、「昼ちゃんこ」は朝食と昼食が一緒になったもので朝稽古の後に食べ、「夜ちゃんこ」は夕食です。長年相撲部屋にいて料理経験豊富な力士が「ちゃんこ長」となり、その指導の下でちゃんこが作られます。ちゃんこの味付けや具材は、相撲部屋によって異なります。また同じ味では力士が飽きてしまうので、一つの部屋でも幾つものちゃんこ鍋のレパートリーをもっています。ちゃんこ鍋の代表的な料理の一つに「ソップ炊き」がありますが、これは鶏がらでとっただし汁を使った寄せ鍋です(ソップはスープがなまったものです)。他にも、「味噌炊きちゃんこ」や「チゲ鍋ちゃんこ」、「キムチちゃんこ」、「おでんちゃんこ」、「すき焼きちゃんこ」、「湯豆腐ちゃんこ」、「鮭ちゃんこ」、「豚ちゃんこ」、「イカちゃんこ」などなど、バリエーションは豊富です。地方場所などで後援者から差し入れがあると、それが具材に活かされます。
ちゃんこ鍋そのものは、肉・魚・野菜がメインなので、具にもよりますが基本的にダイエットに最適なヘルシーメニューです。力士が太るのは、はげしい練習で空腹になったところで、ちゃんこ鍋と共に山盛りのご飯を食べ、そしてしっかり寝るというサイクルを繰り返す結果です。
ちゃんこという言葉の語源にはいくつか説があります。「ちゃん」とは「おとうちゃん」のことであり、常陸山がちゃんこ長のことを親しみを込めて「父公(ちゃんこう)」と呼んだことに由来するという説があります。さらには、親方を父「チャン」に、弟子を子「コ」にたとえた師弟関係を表現したものという見解もあります。他に、中国語に由来する説もあり、細かく見れば「中国」という意味の「中(ツォン Zhōng)」に、「鍋(クオ Guō)」を足した「中国鍋」から「ちゃんこ」になったという説や、「中国(ツォンクオ Zhōng Guó)」から来たとする説、さらには長崎巡業の際に差し入れでもらった海鮮物を食べるのに中国の板金製の鍋「鏟鍋(チャンクオ Chǎn Guō)」を使ったのが由来とする説もあります。
日本のプロレスにおいても、ちゃんこがレスラーのためのジムの食事として取り入れられていきました。そのきっかけとなったのは力道山で、本人が元関脇だった上に、事務所には豊登や芳の里などの元力士が多かったことから相撲の習慣が導入されました。
大相撲を辞した関取や、現役時代にちゃんこ長として料理の腕を磨いた元力士が、引退後にちゃんこ料理店を営むケースが多く見られます。現役の時に培(つちか)った料理の技を活かしたちゃんこを、力士ではない一般の人が楽しむことができます。店の名前にはしばしば現役時代の本人の四股名(しこな)をつけたり、出資者の関取の四股名が付けられる場合があります。ちゃんこ料理店は、墨田区の両国国技館周辺や地方の相撲開催地に特に集中しています。ちゃんこ料理店は料理を楽しむ飲食店というだけでなく、現役時代には直接会うことがかなわなかった元力士に接する機会になったり、相撲好きのお客さんの間で相撲談義に花を咲かせることができる交流の場にもなっています。
CHANKO-1 グランプリ
ちゃんこを広く宣伝するイベントとして、ちゃんこ料理の祭典「CHANKO-1グランプリ」が毎年開かれています。元力士が作るちゃんこ料理店が多数出店し、開催期間中に料理を食べた来場者の投票により、ちゃんこ料理の「横綱」を決めます。第3回となる2018年には、2日間で合計4万人を超える来場者が集まりました。
写真提供 (一社)日本ちゃんこ協会