■指定されている場所:大島町
伊豆大島では、現在、約300万本の椿(ヤブツバキ)が生えていて、島のいたるところで椿を鑑賞することができます。伊豆大島は、温暖な気候に加え、火山灰を含む水はけのよい土壌が、椿の生育に適していたため古くから椿が自生していました。さらに、椿油を採るために、雑木林の中の椿だけを残して伐採するという方法によって椿林、椿山が作られてきました。
椿の幹は強くしなやかで、強風や乾燥にも強いため、伊豆大島では防風林として、また隣地との境界の目印として植えられてきました。椿が道路の両側に並木のように植えられている場所も伊豆大島には多く見られます。
伊豆大島には、「国際優秀つばき園」が3つもあります。国際優秀つばき園とは、世界的に権威のある国際ツバキ協会(ICS)が椿の品種や管理・運営の基準を満たしているかどうかを審査し、その基準をクリアしてはじめて認定された優秀な椿園のことです。世界全体で40か所が指定されています。
伊豆大島では、「都立大島公園」、「都立大島高校」、「椿花ガーデン」の3つの椿園が、国際優秀つばき園に認定されており、鑑賞を楽しめる椿林です。
「都立大島公園」は、世界最大級の椿園です。椿園の敷地面積は7ヘクタール、つまり東京ドーム約1.5個分の広大な敷地の中に約1000種類の園芸品種3200本に加え、5000本のヤブツバキが植えられています。特に関東系の園芸品種が多く展示されています。併設された「椿資料館」には、縄文時代の椿の葉の化石や、椿を材料とした工芸品や椿をモチーフとした美術品が展示され、椿の歴史や文化を学ぶことができます。椿まつりの期間中は椿資料館の中央付近に、開花した園芸品種の椿の切り花がずらりと展示されており、品種による千差万別の花の形や、色合いの違い、香りの違いを実感することができます。
椿園の中央には、「培養温室」(椿まつり期間中は公開)があり、さらには「大島公園動物園」や「サクラの広場」、「ヤシの広場」、「ブーゲンの広場」が隣接しており、椿園と共に鑑賞することができます。
「都立大島高校」の椿園は、生徒が栽培管理の実習や園芸講座を行うための教材の役割を果たしている極めて珍しい存在です。椿園内には、約350種類、1,000本以上の園芸品種が植えられています。
「椿花ガーデン」は、約400種類、2,000本以上の園芸品種が植えられています。園内の富士見の丘は伊豆半島や富士山が一望できる芝生の丘です。展望台からはさらに周囲の雄大なパノラマを眺望することができます。さらに、うさぎと触れ合い、餌付け体験ができる「うさぎの森」や、ゴーカートやパターゴルフがあり家族で楽しめる施設もあります。
ツバキの開花時期がまだ寒い時期のため、花粉を運ぶ昆虫が飛んでおらず、代わりに鳥たちが受粉を助けています。椿はいわゆる「鳥媒花(ちょうばいか)」と呼ばれます。椿の花が赤いのは鳥にも目立つため、花びらが厚く花が全体に丈夫なのは鳥に蜜を吸われても壊れないため、比較的香りが弱い品種が多いのは嗅覚が弱く視覚が鋭い鳥類を香りで呼び寄せる必要がないためです。椿の開花時期に椿園を歩いていると、椿の花の蜜を吸いに来るヒヨドリやメジロに出会えるでしょう。その時には、椿の花が鳥媒花に適していることをよく観察してみましょう。
伊豆大島には、これらの3つの椿園以外にも、椿の名所がたくさんあります。椿花ガーデンの近く、大丸山付近には「椿の森公園」があり、手入れの行き届いた大木の椿林になっています。
「泉津の椿トンネル」は、樹齢200年前後の古木が約100mも続く椿の並木です。道の両側の椿から伸びた枝が上にいくにつれて横に伸び、重なりあっているため、「椿トンネル」と呼ばれています。日光をさえぎって昼でも暗いのも、トンネルに似ています。泉津の椿トンネルの中でもっとも樹齢の古い「寿老椿」は、樹齢が400〜600年と言われています。椿トンネルの途中にある「泉津の切通し」は、苔むした岩壁に二本の巨木の根がむき出しになっていて、その情景は力強く神秘的です。
「千寿椿」は、岡田港を一望できる「港が見える丘」の近くにあります。幹周りが胸の高さで174cmもあります。推定樹齢が400年もあり、「日本一の風格」と評されています。
「野地の椿」は、大島空港の西側にあり、細い道路の両側に椿が並んでトンネルを作っています。途中にある「夫婦椿(めおとつばき)」は、2本の椿の根がつながっています。現地の看板には「島の椿は数知れず。そんな椿の島のなかでも、手をつなぎ寄り添うヤブツバキはここだけ。2人の仲も…」とあり、「大島縁結びポイント」と書かれています。
泉津の椿トンネル
「新込の椿」は、もともと防風林として植えられました。9月下旬から咲き始める島一番の早咲きの椿や桃色の椿など変わった品種の椿が見られます。
伊豆大島の3つの椿園が「国際優秀つばき園」として認定されたということが、国内のみならず海外に広く知られるようになるならば、椿林はより一層その価値を増すことでしょう。
泉津の切通し
千寿椿
夫婦椿
新込の椿